「星の下 路の上」ツアー最終公演が東京国際フォーラムで開催された。この公演は追加日程として発表され「有楽町で逢いましょう。」というコピーで広く告知された。佐野元春
and The Hobo King Bandの単独公演としては2000年の日本武道館以来となるビッグ・イベントで、収容人数約5000人、東京駅近くという立地に、日曜午後5時開演ということで、日本全国から数多くの佐野元春ファンが駆けつけた。
フランク永井の「有楽町で逢いましょう」がオープニングにながれてスタートしたファイナル公演。佐野元春 and The Hobo King Bandは熱の入ったパフォーマンスを繰り広げ、オーディエンスに盛大なアプローズで迎え入れられた。バンドはそれぞれ情報量の多い自発的な演奏を展開していたが、そこから生み出されるグルーヴやビート感は素晴らしかった。TTシスターズもこれ以上はないといった感じのコーラス・ワークでステージを盛り上げた。
「Wild Hearts」からはじまる後半のヒットパレードで更に盛り上がることになった。これまでのホーボーキングバンドは単なるサポートバンドに留まらず、高い音楽性に裏打ちされた演奏技術で魅了してきた。その結果、佐野元春の歌に合わせてオーディエンスが一緒に歌うといった場面が極端に少なくなっていたように思う。オーディエンスは唱和するよりも、ライヴ・ツアーの中で進化してゆくホーボーキングバンドの演奏に注目するようになっていた。しかし今回の「星の下 路の上」ツアーではファンの、オーディエンスの場所がちゃんと提供されている。ホーボーキングバンドが「佐野元春オールタイム・フェイバレイツ」といったハートランド時代のクラシックスを忠実に再現することで盛り上がるようになっているのだ。そこでは熱狂が会場を支配する。熱狂が臨界点に達するまでに時間はそう多くかからなかった。オーディエンスは佐野元春と一緒になって歌っていた。
僕は身体中から湧き上がる何かポップな気持ちが純粋なままで精製されるのを感じていた。歌う、歌わないというのは全く個人の自由だから自らの意志に従って行動すればいい。僕としては周りのムードにながされることなく主体性を貫こうとしていた。しかしこの夜だけは自分でも驚いたのだが歌っていたのだ。本当に久し振りに誰に憚ることなく大声で歌った。
「New Age」の出だしで佐野元春が"数えきれないイタミのキス/星くずみたいに降ってくる"と歌った瞬間のことだ。会場から異様などよめきが起こった。何が起こったのかすぐわかった。天井から無数の白い風船とキラキラ光る星型が降ってきたのだ。胸の内にじわりと感動の波が広がった。1985年に大阪城ホールで見たVisitors
Tour Specialのことを思い出した。「Young Bloods」の時に風船と太陽のバルーンが降った。僕が最初に聴きに行った佐野元春の公演の出来事だ。その時の記憶とオーバーラップした。
そしてその瞬間は訪れた。遂に最終公演で「星の下 路の上」が演奏されたのだ。深沼、高桑、小松がステージに呼び込まれ、ホーボーキングバンドに代わり佐野元春をサポートした。広いステージにたった4人しかいない。でも存在感はあった。ドドン、ドドンというドラムの音、エレクトリック・ギターがリズムを刻む音、「さぁ、これから何かがはじまるぞ」という予感にも似たわくわくするような気持ちがふつふつと湧き上がってきた。ロックンロールが今奏でられようとしている。最高だ、その場に立ち目撃しているのは。
このステージでは前半にホーボーキングバンドのスポンテニアスな演奏があり、後半ではハートランドにリスペクトした楽曲が披露された。そして最後に新しいフェイズがあった。佐野元春の現在、過去、未来が見渡せる特別な夜だった。このライヴによるアンソロジーは「成長することについて」、あるいは「大人になるってどういうこと?」というテーマがあったのだと思う。ポッドキャストの「musc united.」で佐野元春は何度目かの思春期が訪れようとしていると話した。大人になっても「成長すること」には終わりがない。このライヴ・ツアー「星の下 路の上」が後ろ向きではないことを、この夜のライヴは証明していた。
2006年4月2日(日) 東京国際フォーラム ホールA
1階32列11番
佐野元春(Vocal, Guitar）
古田たかし(Drums)
井上富雄(Bass)
佐橋佳幸(Guitars)
Dr.kyOn(Keyboards, Guitar)
山本拓夫(Saxophone, Flute)
田中まゆ果(Backing Chorus)
竹内宏美(Backing Chorus)
GUEST
小松シゲル(Drums)
高桑圭(Bass)
深沼元昭(Guitar)
Set List
01 Hobo King Band のテーマ '06
02 アンジェリーナ
03 ぼくは大人になった
04 Complication Shakedown
05 Strange Days
06 Heart Beat
07 99 Blues
08 Individualists
09 ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
10 Rock & Roll Night
11 バルセロナの夜
12 Do What You Like -勝手にしなよ
13 最後の１ピース
14 観覧車の夜
15 君の魂 大事な魂
16 Wild Hearts
17 ブルーの見解
18 悲しきRadio
19 So Young
20 Rainbow In My Soul
21 Young Bloods
22 約束の橋
23 Someday
24 New Age
Encore
25 国のための準備
26 星の下 路の上(星路バンド)
27 Hobo King Band メドレー(Short Version)
28 彼女はデリケート
DVD『「星の下 路の上」 2006.4.2 LIVE AT 東京国際フォーラム / HALL A』初回限定盤を購入する。
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