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PERFORMANCE 2008-2009 |
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フェスティバルホール取り壊し前の最後のライヴを行うことがきっかけとなってはじまった今回のライヴ・ツアー。東京公演全6公演のいちばん最初の2日間が1月31日、2月1日にNHKホールで行われた。2月1日は全47公演中のちょうど20本目のライヴということだった。 いつものように「Sparkle」でスタートしたライヴだが、各楽器の音がバランスよく分離していて、とても聴きやすい音響だと思った。会場には指向性マイクが2本立っていてライヴ・レコーディングを行っているらしい雰囲気があった。「Jungle Swing」がはじまるとセットのタイトル・ボードが回転し電飾が点灯するのだが、オペラグラスで見ていて、それが手動で行われている現場を目撃してしまった。「Donut Song」の冒頭に入る唱歌は季節感を取り入れて「春よ来い」に変わっていた。歌詞の「公園通り」のところでは右手で方角を示していた。 「夏への扉」の後で今回のライヴ・ツアーがはじまった経緯と、ツアー前半はフェスティバルホールが昨年末で閉館するので、取り壊し前のラスト・ライヴに向けてセットリストが組まれていたこと、「ついておいで」ははじめて大阪でライヴを行ったときに1曲目で歌った曲で、「フェスティバルホールの神さまに捧げます」と言って歌っていたことを話した。そして年が明けてからは新しい曲に変えて演奏する予定だったが、久し振りに「ついておいで」を歌うと、眼前に昔の記憶が走馬灯のようによみがえってきて気分がよく、引き続き「ついておいで」を歌うことにしたのだと話した。 この6年のあいだ、ツアーに出られなかった最大の理由は、バンドのメンバーの1/3が他のアーティストとかけもちしていたことだった。特に冬のツアーはメンバーが集まらなくてスケジュールが組めなかったそうだ。結局、他のアーティストについてゆく2人は諦めることにしたのだという。新しいメンバーのひとりドラムスの小笠原拓海は山下洋輔ニュー・クァルテットのメンバーで3年ほどフリー・ジャズをやっていたとか。もうひとりの新メンバー柴田俊文は佐橋佳幸と一緒にUGUISS(ウグイス)というバンドをやっていて、キーボード・プレイヤーとして一人立ちし、今や松たか子や大黒摩季、槇原敬之といった人たちのライヴやレコーディングに参加している。 「どこかで見かけたら揉んでやってください」と山下達郎。セカンド・キーボードというのはテクニックのいるポジションだが、その割には目立たないので損な役割だけど、たいへん上手いプレイヤーだと話した。 そしてこの新しいメンバー2人を加えた伊藤広規、難波弘之、佐橋佳幸のリズム・セクションは、シュガーベイブからはじまった山下達郎のミュージシャン人生の中でもいちばん好きかもしれないと話し、このリズム・セクションを堪能するなら山下達郎のレパートリーの中ではこの曲だとして「Paper Doll」を演奏した。山下達郎のギター・ソロが最初にあって、難波弘之のピアノ・ソロ、柴田俊文のハモンド・オルガンのソロ、佐橋佳幸のギター・ソロが披露された。 「さよなら夏の日」をバンド編成で聴くのは16年ぶりとなる。バンドは一転して歌に寄り添う伴奏となる。山下達郎はギターを置いてハンドマイクで歌う。濃紺のシャツの左肩から胸にかけて汗が滲んでいる。その声に魅せられて聴き入ってしまう。心の底でぼんやりと「喪失感」について思いを馳せる。 東京のライヴは業界指数が高くてしばしば果し合いのような雰囲気になるのだという。しかし今回は2日間とも暖かい雰囲気でやりやすいと山下達郎は話した。アルバムを持たないライヴ・ツアーは今回がはじめてだそうで、好きな曲を選んでセット・リストを組んでいるという。前半は古い曲が続いたので、最新シングルのひとつ前のヒット曲を是非聴いてほしいと話して「Forever Mine」を歌った。難波弘之のピアノ演奏に伊藤広規のベース、小笠原拓海のシェーカー、柴田俊文のキーボードというアコースティックな編成。 「年のことばかり話して周りに怒られるんですが」と山下達郎。美空ひばり、石原裕次郎は52歳で亡くなり、林家三平は54歳で亡くなった、比べるのもおこがましいが、その年齢をとっくに過ぎて3日後には56歳になると話した。ステージには山下達郎ただひとり。この緩急をつけたステージ構成の見事さ。 ひとりアカペラで「バラ色の人生」を歌うときに、あるインタビューで「ひとりアカペラはどんなエディットをしているのか」と訊かれたことがあると話した。歌のピッチや音程のずれを補正するソフトがあって、ヴォーカルをひとり多重録音しているのならエディットしているはずだと思われていたそうだ。「リズムボックスに身体をなじませてヴォーカルをレコーディングしたので偽装は一切ない」と山下達郎は話した。「Chapel Of Dreams」では大きいスピーカーで聴いてほしいというようなことを話していた。そして「季節外れとなりましたが」ということわりがあって「Have Yourself A Little Merry Christmas」。 「We Wish You A Merry Christmas」に乗ってバンドが再登場し「クリスマス・イブ」がはじまった。この曲が発表されてからもう25年という月日が経過した。今回のツアーで山下達郎のライヴをはじめて観る人たちにとって、いちばん聴きたかった曲なのかもしれない。 歌のイメージがどこなのかはわからない。「蒼氓」で僕は渋谷のスクランブル交差点の人の波を思い浮かべた。「魂」、「未来」、「やさしさ」、「憧れや名誉」、「華やかな夢」、そして「たそがれ」。次々にあらわれる言葉に思いを巡らして胸が揺さぶられるような感動を味わった。一緒に歌わずにはいられなかった。 「6、7年前にレコード会社とうまくいかなくて移籍を真剣に考えたことがある」と山下達郎は話した。その後、スタッフが総入れ替えになり、上層部が若返ってから事態は好転し、今は大事に扱ってもらえるようになったのだという。「禍福は糾える縄の如し」、「人間万事塞翁が馬」という思いになったそうだ。そうするとこの何年かのあいだはただ無駄に時を過ごしたんじゃないかと思いはじめ、これから還暦までの4年間はどんなに少ない本数でも毎年ライヴ・ツアーを行うつもりだと話した。そして260数曲を数えるレパートリーを300曲まで増やすことを目標にしてレコーディングするつもりで、のんびりするにはまだ性格がとんがっていると話した。 「Bomber」の演奏が凄かった。バンドの白熱したプレイ、山下達郎の闇を切り裂くようなヴォーカル、何も申し分なかった。曲の後半で披露される小笠原拓海のドラム・ソロ。赤いリスト・バンドが凄まじいスピードで行き交う。素晴らしすぎる。「Let's Dance Baby」で立ち上がって盛り上がりるのだと僕は決めていた。がしかしここは東京。オーディエンスは大人しく、スタンディングとはならなかった。曲間に挿入される「Twistin' The Night Away」で山下達郎は"Somewhere up New York way"という歌詞を"Tokyo way"に変えて歌っていた。そのあとも「Dancing Queen」に続いて、「Dancing In The Moonlight」と「Do You Wanna Dance」が追加されていた。「高気圧ガール」に続いて「Ride On Time」がはじまったとき僕は反射的に立ち上がっていた。もう横並びで大人しくしてることができなかった。僕と同じ思いの人が他にもいてぱらぱらと立ち上がり、ようやくスタンディングのかっこうとなった。 アンコール1曲目のイントロで、手をゆっくりと下ろし、オーディエンスを座らせた山下達郎。まったりと「ずっと一緒さ」を歌った。手塚治虫に捧げた「アトムの子」は、ちょうど1月末にNHKの「プレミアム10」で「手塚治虫 漫画 音楽 そして人生」という特集が組まれ、番組の中で鉄腕アトムのアニメ付きで紹介されたこともあり、グッと身近に感じられた。演奏が終わってバンドがステージの前に整列。山下達郎の右側には新メンバーの柴田俊文、左側には小笠原拓海がいて、彼らを紹介するようにしてお辞儀をした。バンドはまたそれぞれの位置に戻り、山下達郎のギター・カッティングとカウントがあって、そして佐橋佳幸を指差すと懐かしいフレーズが飛び出した。シュガーベイブ時代の代表曲「Down Town」だ。渋谷で聴く「Down Town」は格別だった。 「たいへんな時代になりました。でもピンチはチャンスと申します。お互いがんばりましょう」最後に山下達郎はそう言って「Your Eyes」を歌った。間奏で土岐英史のサキソフォン・ソロ。この日は土岐英史の誕生日だったことを僕は後になって知った。 2009年2月1日（日） NHKホール 2階C12列L11番 山下達郎(Vocal,Guitar) 小笠原拓海(Drums) 伊藤広規(Bass) 難波弘之(Acoustic Piano & Rhodes) 柴田俊文(Keyboard) 佐橋佳幸(Guitars) 土岐英史(Saxophone) 国分友里恵(Background Vocal) 佐々木久美(Background Vocal) 三谷泰弘(Background Vocal) Set List Opening B.G.M: Custom Made(バラ色の人生〜ラヴィアンローズのバリエーション) 01 Sparkle 02 Jungle Swing 03 Blow 04 Donut Song 05 夏への扉(The Door Into Summer) 06 ついておいで(Follow Me Along) 07 Paper Doll 08 さよなら夏の日 09 Forever Mine 10 バラ色の人生〜ラヴィアンローズ 11 Chapel Of Dreams 12 Have Yourself A Little Merry Christmas 13 We Wish You A Merry Christmas〜クリスマス・イブ 14 蒼氓 15 Get Back In Love 16 Bomber 17 Let's Dance Baby 18 高気圧ガール 19 Ride On Time Encore 20 ずっと一緒さ 21 アトムの子 22 Down Town 23 Your Eyes Closing B.G.M.: That's My Desire |
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