佐野元春 and The Coyote Band
今、何処 TOUR 2023
アルバム『今、何処』のツアーがアルバムの発売から11ヶ月経って行われた。2022年のTOUR 2022 "WHERE ARE YOU NOW"に連なる全国ホール・ツアー。佐野元春とコヨーテバンドは全員が黒のスーツ姿だった。8月までのツアーではライヴの立ち上がりがアルバム『今、何処』の「OPENING」から「さよならメランコリア」へと曲順通りに再現されていたが、東京国際フォーラム公演ではアルバムの末尾を飾るアルバム・タイトルでエンド・テーマといっていい「今、何処」から「OPENING」へと変わっていた。

今回のライヴはステージの奥に映像が映し出されるのだが、その舞台アートが素晴らしかった。曲にシンクロした映像が映し出されて、時間芸術と言われる音楽のインスタレーションのように機能していた。最初に目にしたのは砂漠の風景だった。そしてライヴの本編の最後に現れたのもこれと同じ砂漠であった。

5曲目の「植民地の夜」から歌詞の一部がリリック・ビデオのように現れた。ただそれは歌詞というよりも詩でありコトバ。フォントにもこだわっていた。8曲目からはCDでは初回限定盤の『今、何処』デラックス・エディションに同封された『ENTERTAINMENT!』の曲が披露された。

大阪公演では佐野元春が「エンタテイメントの世界で、大人の欲望によって子どもたちが犠牲になってるという話を聞きました。世界中の子どもたちに歌います」と言って「愛が分母」を演奏。その言葉が響いて僕自身が熱く燃えた。

余談だがBBCのドキュメント「J-POPの捕食者　秘められたスキャンダル」が日本で配信されたのは3月。福岡RKBラジオの『田畑竜介 Grooooow Up』の「松尾潔のBrush Up & Catch Up」で、佐野元春の誕生日3月13日に「佐野元春を語る」がオンエアされ、その番組を僕はエリアフリー(タイムフリー)で聴いた。確か「佐野元春を語る」は番組の後半で、前半のコーナーで松尾潔が性加害について話しているのを、興味深く聴いていた。

東京国際フォーラム公演の後、佐野元春は横浜公演に松尾潔を招待しているのだが、旧ツイッターでの松尾潔のツイートやあれやこれらが、いろいろと繋がってゆくように感じた。大阪公演は松尾潔がスマイルカンパニーから契約の途中で解除されたことをツイートした直後だっだ。

「愛が分母」からコヨーテバンドのライヴでは定番になった「ポーラスタア」と「La Vita e Bella」。「純恋(すみれ)」の前に大阪、京都ではご当地紀行のようなMCがあった。東京では撮影をしていたからなのか、東京国際フォーラムホールAでライヴをやったのは7年ぶりというものだった。次の曲は「詩人の恋」。僕はいつも坂本龍一のことを想った。

坂本龍一は実際にライヴを観るようになって30年くらい。コロナ前の2019年にNO NUKES 2019で大友良英と即興演奏のセッションを観たのが最後になった。2020年の春に緊急事態宣言下で配信のライヴがあり、今年の春に亡くなるまでの3年間が走馬灯のように駆け巡った。

後半は『今、何処』の楽曲に戻って「エデンの海」、「君の宙」。「君の宙」ではクール・ダウンさせるためなのかオーディエンスに座るよう促すのだが、次の「水のように」で再びスタンディングになった。「大人のくせに」がまたライヴで映える曲なので、盛り上がりは絶頂に達した。ここの流れはいつもロック・オペラのようだと思った。何かが起こっているのだが渦中にいてよくわかっていないような心持ち。「明日の誓い」で大団円を迎えるのだが、これほどまでに文学性の高い曲だとは思わなかった。ライヴで聴いて改めてじわじわと感じ入ってしまった。そしてここで終わらず「優しい闇」が控えていた。めくるめく怒涛の展開が待っていた。

アンコールは会場によって変わった。「約束の橋」、「アンジェリーナ」の2曲は決まっていたようだ。東京では「Sweet16」(僕が聴きに行った大阪、京都、東京の全てで披露されたのだが)の後、ダブル・アンコールで佐野元春は「大滝詠一、PANTA、忌野清志郎、坂本龍一の居ない時代に生きている」と話し出した。「なんだかポツンと取り残された感じで、彼らの新しい音楽が聴けないのは残念だけれど、僕はこうして今も続いています」と言った。それはひとり残された佐野元春が彼らの精神を受け継いでゆくという決意表明のようにも受け取れた。その直後に「一緒に歌ってください」と「SOMEDAY」を歌ったのだけれど、コロナ禍で声出しができなかった数年を思うと、その言葉は心に刺さるものがあった。会場がみんな一緒に歌ったのか、それを体感するには僕は冷静さを欠いていたのかもしれない。喉の奥に固いものが込み上げてきて苦しかった。佐野元春のライヴでそんな気分になったのは久しぶりだったが、心が浄化して、少しだけ気持ちが安らいだ。

■佐野元春 and The Coyote Band
今、何処 TOUR 2023
2023年7月2日(日) フェスティバルホール
1階 5列 30番

佐野元春(Vocals, Guitar)
深沼元昭(Guitar)
藤田顕(Guitar)
小松シゲル(Drums)
高桑圭(Bass)
渡辺シュンスケ(Keyboards)

Set List
01. OPENING
02 さよならメランコリア
03 銀の月
04 クロエ
05 植民地の夜
06 斜陽
07 冬の雑踏
08 エンタテイメント !
09 新天地
10 愛が分母
11 ポーラスタア
12 La Vita e Bella
13 純恋(すみれ)
14 詩人の恋
15 エデンの海
16 君の宙
17 水のように
18 大人のくせに
19 明日の誓い
20 優しい闇
Encore
21 約束の橋
22 Sweet16
23 アンジェリーナ
Ending : Where Are You Now(My Love) / Jackie Trent

■佐野元春 and The Coyote Band
今、何処 TOUR 2023
2023年7月29日(土) ロームシアター京都メインホール
1階 8列 18番

佐野元春(Vocals, Guitar)
深沼元昭(Guitar)
藤田顕(Guitar)
小松シゲル(Drums)
高桑圭(Bass)
渡辺シュンスケ(Keyboards)

Set List
01. OPENING
02 さよならメランコリア
03 銀の月
04 クロエ
05 植民地の夜
06 斜陽
07 冬の雑踏
08 エンタテイメント !
09 新天地
10 愛が分母
11 ポーラスタア
12 La Vita e Bella
13 純恋(すみれ)
14 詩人の恋
15 エデンの海
16 君の宙
17 水のように
18 大人のくせに
19 明日の誓い
20 優しい闇
Encore
21 境界線
22 約束の橋
23 アンジェリーナ
24 Sweet16
Ending : Where Are You Now(My Love) / Jackie Trent

■佐野元春 and The Coyote Band
今、何処 TOUR 2023
2023年9月3日(日) 東京国際フォーラムホールA
1階 4列 48番

佐野元春(Vocals, Guitar)
深沼元昭(Guitar)
藤田顕(Guitar)
小松シゲル(Drums)
高桑圭(Bass)
渡辺シュンスケ(Keyboards)

Set List
01. 今、何処～OPENING
02 さよならメランコリア
03 銀の月
04 クロエ
05 植民地の夜
06 斜陽
07 冬の雑踏
08 エンタテイメント !
09 新天地
10 愛が分母
11 ポーラスタア
12 La Vita e Bella
13 純恋(すみれ)
14 詩人の恋
15 エデンの海
16 君の宙
17 水のように
18 大人のくせに
19 明日の誓い
20 優しい闇
Encore
21 約束の橋
22 Sweet16
23 SOMEDAY
24 アンジェリーナ
Ending : Where Are You Now(My Love) / Jackie Trent

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