佐野元春 and The Coyote Band Rockin' Christmas 2019

「Peace On Earth / Little Drummer Boy」のインストがロッキン・クリスマスのオープニングだった。佐野元春の古くからのファンは1983年のサウンドストリート「元春レディオショー」でオンエアされた「クリスマス・ソング特集」を思い出したかもしれない。ビング・クロスビーとデヴィッド・ボウイのデュエット・シングルは1982年のクリスマスにリリースされたが、もともとはビング・クロスビーのテレビ・ショーで1977年に披露されたもの。そのマーチング・ドラムが鳴り響く中でメンバーが現れ、佐野元春がいつものブラック・スーツにブラック・タイの出で立ちで登場してライヴの幕が開いた。 2009年から10年、コヨーテバンドは佐野元春と共にライヴ活動を行って、今や紛れもないバンド・サウンドを奏でるようになった。ここ数年はアルバム『Blood Moon』を軸にしてセット・リストが組まれていて、コヨーテバンドのレパートリーで占められている。先日まで行っていたライヴ・ハウス・ツアー「ソウルボーイへの伝言 2019」も、新曲を披露しつつコヨーテバンドの魅力を存分に味わう、そんな充実した内容だった。今回のロッキン・クリスマスもセットリストはコヨーテバンドのレパートリーを中心にして素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられた。 第一部はそんな感じで夏にダウンローディングのみで発表された新曲「愛が分母」、それに共通する認識のクリスマス・ソング「みんなの願いかなう日まで」を交えて50分全8曲が演奏された。「世界は慈悲を求めている」でスタートしたので何かしらのストーリーに沿っていたのかもしれないが、ライヴの最中に主題は見えてこなかった。佐野元春のソロ名義で10月にリリースされた最新ミニ・アルバム『或る秋の日』からは「みんなの願いかなう日まで」だけ。「永遠の迷宮」が聴きたかったけれどかなえられなかった。 第二部になり「太陽」、「レインボー・イン・マイ・ソウル」とホーボーキングバンドやハートランド時代の楽曲が披露された。コヨーテバンドはここでもオリジナルの雰囲気を損なうことなく、佐野元春の名曲を見事に再現してみせた。「クリスマス・タイム・イン・ブルー」を歌う前に佐野元春は「大阪の街を平和な気持ちで満たしていこう」と話した。それが今年のロッキン・クリスマスの鍵だったかもしれない。北朝鮮が大陸弾道ミサイルを準備しているとか、世界の平和がかき乱されようとしている。佐野元春は直感的にその時代の空気を読み取り、僕たちにメッセージを込めてクリスマス・ソングを歌ったのだと思った。オープニングを飾った「Peace On Earth / Little Drummer Boy」が重なり、十代や二十代の頃のように"Tonight's Gonna Be Alright"と一緒になって歌った。ちなみに「Peace On Earth / Little Drummer Boy」は世界の平和はあり得るだろうか、仲間を大切に、ありったけの愛を与えられるよう、願いがかなうように祈る、といった内容だ。 続く「La Vita e Bella」で佐野元春は全国ライヴハウス・ツアーで地方を回ったこと、そしてこの一年に思いを馳せて、災害が多かったと話した。そして「復興に向けてがんばってる人たちに捧げたい」と言って「La Vita e Bella」を歌った。それはいつになく響いた。音楽が心の癒しになることは知ってたのだけど、こんなふうに生活に寄り添えるものなのかと思った。 アンコールの「ガラスのジェネレーション」は「ソウルボーイへの伝言 2019」と同じアコースティック・ヴァージョンだったが深沼元昭だけギブソンのレスポールを弾いていた。'80年代の楽曲が連なり「New Age」が披露された。オリジナル・ヴァージョンに沿った演奏で、新しく迎える2020年に向かって歩を進めるエネルギーになった。アウトロでバンガロービルを歌うのか、少し期待を持っていたら、佐野元春はこれまでにない強い調子で"Hey, Bungalow Bill. What did you kill. Bungalow Bill?"と叫んだ。トランプ大統領の顔が咄嗟に浮かんで、僕は激しく心が揺さぶられた。バンガロービルはビートルズの曲でジョン・レノンが嫌っていたアメリカ人親子の反感を題材にして書いた曲。正式なタイトルは「The Continuing Story Of Bungalow Bill」。佐野元春が最後に突きつけたのは重い命題だった。あなたは何を殺したんだ? という問いかけに僕は言葉を失った。 ■佐野元春 and The Coyote Band Rockin' Christmas 2019 2019年12月20日(金) ZEPP NAMBA OSAKA 1階H列27番 佐野元春(Vocals, Guitar) 深沼元昭(Guitar) 高桑圭(Bass) 小松シゲル(Drums) 渡辺シュンスケ(Keyboards) 藤田顕(Guitar) 大井"SPAM"洋輔(Percussion) Set List Opening : Little Drummer Boy(Produced by Motoharu Sano) 1st Set 01世界は慈悲を求めている 02 ポーラスタア 03 バイ・ザ・シー 04 新しい雨 05 境界線 06 愛が分母 07 みんなの願いかなう日まで 08 純恋(すみれ) Pause(20 Minutes) 2nd Set 09白夜飛行 10 君が気高い孤独なら 11 私の太陽 12 いつかの君 13 太陽 14 レインボー・イン・マイ・ソウル 15 クリスマス・タイム・イン・ブルー 16 La Vita e Bella 17 優しい闇 Encore 18 ガラスのジェネレーション 19 Individualists 20 New Age～メドレー 21 彼女はデリケート

佐野元春 and The Coyote Band CLUB CIRCUIT TOUR 「ソウルボーイへの伝言 2019」

佐野元春デビュー40周年を翌年に控えた2019年に、そのプレ40周年として行われたコヨーテバンドとのクラブ・サーキット・ツアー。神戸は前回が2013年で6年ぶりだとか。「ソウルボーイへの伝言」は2010年のデビュー30周年の一環で行われたことがある。今回はシリーズとして9年ぶりで、クラブ・サーキット・ツアーということであれば、2015年のサマー・ツアー以来4年ぶり。 ツアーのタイトルにもなった「ヤァ! ソウルボーイ」は昨年の禅ビート・ツアーでも演奏されており、それが予告だとしたら一年がかりで用意していたのかもしれない。ライヴは「ヤァ! ソウルボーイ」でスタートし、2曲目以降はこのところのライヴと同じでコヨーテバンドのレパートリーで占められていた。コヨーテバンドは神戸まで各地でライヴを重ねてきたので、乗りに乗った演奏を繰り広げた。セットリストは正に鉄板で会場は大いに盛り上がった。 中盤に新曲のお披露目があり、ひとつは8月に配信のみで発表された「愛が分母」。もう一曲はこのツアーの中で初めて演奏される曲で、タイトルもまだついてないフォーク・ロック調の楽曲。新曲ということであれば10月にリリースされたアルバム『或る秋の日』の楽曲を今回歌わなかった。ソロ傾向の歌が多いとはいえ、タイトルさえ未定の曲を歌うより、例えば「君がいなくちゃ」を演奏するほうが、聴衆の心を掴んだのではないかと思うのだが、その点が惜しまれた。 アンコールでは久しぶりに「ガラスのジェネレーション」が歌われた。僕の一方的な思い込みでこの曲は長い間ライヴで歌ってないと思っていた。若い頃の切実な思い、特に最後の"つまらない大人にはなりたくない"の一節は現在において説得力を持って響かせるのが困難だと佐野元春は考えているのではないかと感じていた。それ故ライヴでは封印していたと思っていた。でも今回改めて調べてみると、僕がライヴで最後にこの曲を聴いたのは2011年のAll Flowers In Timeだということがわかった。8年というと若い世代にとっては長いけれど、僕のような年代では割と最近のことで、僕の記憶の中では20年近い歳月、「ガラスのジェネレーション」を歌ってないと思っていた。 「ガラスのジェネレーション」はアコースティック・ギターをフィーチャーしたアレンジで披露された。聴衆に大喝采で迎え入れられてみんなで一緒に歌った。"つまらない大人にはなりたくない"のところではじんと来るところがあって心が揺さぶられた。今回のライヴで最も印象に残った一瞬だった。ライヴの終わりに佐野元春は、この地(神戸)で頑張ってる人たち、この地を離れて頑張ってる人たちが、今夜集まったことは奇跡といってもいいと話して、胸いっぱいの思いを届けた。 ■佐野元春 and The Coyote Band CLUB CIRCUIT TOUR「ソウルボーイへの伝言 2019」 2019年11月23日(祝・土) Harbor Studio 入場整理番号A395 佐野元春(Vocals, Guitar) 深沼元昭(Guitar) 高桑圭(Bass) 小松シゲル(Drums) 渡辺シュンスケ(Keyboards) 藤田顕(Guitar) 大井"SPAM"洋輔(Percussion) Set List 01 ヤァ! ソウルボーイ 02 境界線 03 君が気高い孤独なら 04 ポーラスタア 05 私の太陽 06 紅い月 07 いつかの君 08 La Vita e Bella 09 愛が分母 10 新曲(タイトル未定) 11 新しい雨 12 純恋(すみれ) 13 禅ビート 14 優しい闇 Encore 15 Individualists 16 悲しきRadio 17 ガラスのジェネレーション 18 彼女はデリケート～メドレー