2006年の「COUNTDOWN JAPAN 06/07 WEST」以来丸一年ぶりとなる佐野元春のライヴ。出演時間は少し早くなって午後8時50分からで、AURORA STAGEでのパフォーマンスとなった。佐野元春
and The Hobo King Bandは今年も佐橋佳幸と山本拓夫がスケジュールの都合で不参加となり、代わりに藤井一彦とボブ・ザンクが加わった編成。佐野元春は色褪せた黒のキャスケットを目深にかぶり、黒のポロシャツに黒のパンツといった昨年と同様の上から下まで真っ黒の衣装で登場した。
佐野元春のアコースティック・ギターのカッティングからなだれ込んだ「Please Don't Tell Me A Lie」のスキッフル・ヴァージョンはジャム・セッションっぽい展開となった。Dr.kyOnのピアノ・ソロが転がる。ちょうどこの日、日付が変わってから大阪読売テレビで放送された「共鳴野郎」は、Dr.kyOnの五十歳を祝う誕生日記念番組だった。そこで佐野元春は「ハートランドからの手紙
#217」という書簡を番組に寄せて、「ROCKは誰にでもできますが、ROLLは限られた人にしかできません。川上君はいつでもROLLできる人です」とDr.kyOnのピアノ演奏を絶賛していた。
この後は昨年とほとんど変わらないセットリストだった。ただ「Complication Shakedown」、「New Age」、「国のための準備」が外れて曲目は少なくなっていた。「99
Blues」や「Individualists」は20年前の楽曲に係わらず、全く古さを感じさせなかった。たとえばボ・ディドリー・ビートの「99
Blues」。歌詞の"得意気な顔をしたこの国のリーダー/シナリオのチェックに忙しい/ユーモアもない/真実もない/フェイクしたスタイルはとても寂しい/フェイクしたスマイルはとても寂しい"。実はオリジナルでは「この国」ではなく「この街」なのだ。しかし、佐野元春はいつの頃からか「この国」と歌うようになった。こうして一年ぶりにライヴで聴いて、リーダーが変わっても「この国」は何も変わってないのだと気づいた。「優れたロック・ミュージックはリベラルな思想に沿ってる」と佐野元春は以前話していた。僕もそう思う。
「Individualists」は個が解き放たれてこそ自由があるのだという個人主義を標榜した楽曲。スカのリズムに乗って佐野元春はタンバリンを片手にハンドマイクで歌った。ホーボーキングバンドはこのフェスティバルのためのリハーサルを二日前にやっただけだったらしいが、演奏は全く問題なかった。佐野元春はときどき藤井一彦のほうを向いて気にしていたようだったが、昨年と比べると十分に役割をこなしアピールできていた。井上富雄と古田たかしのリズム隊が繰り広げるパートは正に完璧だった。
一方で会場にははじめて佐野元春を観るといった観衆も多くいた。彼らの反応が興味深かった。男の野太い声で「佐野さ〜ん」という声援は新鮮であった。自分たちでも知ってる楽曲が演奏されると彼らは盛大なアプローズで受け入れていた。「約束の橋」がその最初の波だった。「次に聴いてもらいたい曲はちょうどみなさんと同じ年代の頃に書いた曲。いつかきっとという思いを込めて書きました。もし詩を知っている人がいたら一緒に歌ってください」と言ってはじまったのが「Someday」。イントロで一際大きな歓声が上がった。もうこの楽曲は佐野元春ファンだけのものではない。そう感じさせる一瞬だった。いつの間にか広く浸透していて僕もうれしくなった。「新年に向けてもう一度ごきげんに歌ったり踊ったりしようか。みんなロックンロールが欲しいんだろ?」と言ってはじまったのは「アンジェリーナ」。佐野元春はキャンディーアップルレッドのストラト・キャスターをかき鳴らしシャウトした。
「もうすぐ新しい年がやってくる。もっと景気よくいこう」と言ってはじまったのが、このところライヴの定番となった「Hobo King Band
メドレー」。コール&レスポンスでは「まだ足りないんだよ」とフランクに新しい提案を出すという展開。「今、いいことを思いついたんだよ。今日僕たちバンドと集まってきてくれたみんなが、愛を交わすことができたらどんなに素晴らしいだろうって。だって音楽ってそうだろ?
簡単に男とか女とか世代とかを超えてしまう。そうだろ? 今夜ここでそれを証明してみたいんだ」と言う佐野元春に会場は沸いた。僕はちょっと恥ずかしかったが、「渋い!」とか「どうしようもないな」とか様々な反応が周りから聞こえてきた。そんな素直なリアクションがおもしろかった。でもみんな最後は一体となって楽しんだのではないのだろうか。年の暮れに清々しい気分になったライヴだった。
■COUNTDOWN JAPAN 07☆08 WEST
2007年12月31日(月) インテックス大阪 AURORA STAGE
佐野元春 and The Hobo King Band
佐野元春(Vocal, Guitar）
古田たかし(Drums)
井上富雄(Bass)
Dr.kyOn(Keyboards)
藤井一彦(Guitar)
Bob
Zang(Saxophone)
Set
List
01 Please Don't Tell Me A Lie
02 99 Blues
03 Individualists
04 約束の橋
05 Someday
06 アンジェリーナ
07 Hobo King Band メドレー
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