|
|
詩と音楽のコンサートX
In motion 2003 「増幅」
words and music 佐野元春 * 井上 鑑
|
2003年11月16日(日) 鎌倉芸術館小ホール
1階3列25番
佐野元春[詩・朗読・作曲](Reading/Guitars/Percussions)
井上 鑑[作編曲](Piano/Keyboards/Guitars)
山木秀夫(Drums/Percusions)
美久月千晴(Bass)
金子飛鳥(Violin)
鎌倉芸術館プロデュースのイベント「詩と音楽のコンサート」は開館5周年を機にスタートしたという。2001年にはシリーズVとして「In
motion 2001 植民地の夜は更けて」が開催されて、僕は9月22日夜の部を聴きに行った。この秋、鎌倉芸術館は開館10周年を迎え、ちょうど「詩と音楽のコンサート」も10回目のシリーズXとなった。1年に2回ずつという感じだろうか。このところ春には仲井戸"CHABO"麗市が「詩と音楽のコンサート」をやっているようだ。佐野元春と井上鑑のコラボレーションもこれから回を重ねてゆくのかもしれない。
「増幅」という副タイトルの意味するところは何だろう。井上鑑は公演パンフレットの中で「事実は感知したものの中で増幅され、理解は増幅される、無理解も増幅される」と書いていた。宣伝の美術や公演パンフレットのアート・ディレクションを担当した小山雅嗣は蟻で「増幅」を表現していた。今回の場合は、前回よりも進化していることを「増幅」という言葉で表しているのだと思われる。しかし、それも「増幅」で言い表される意味のひとつにしか過ぎないのだろう。
21世紀に入ってからの佐野元春は活動の停滞を余儀なくされてきたわけだが、新しいマキシシングル「君の魂 大事な魂 - Sail On」のリリースが決定、ニュー・アルバムも来年の3月に発売予定と、最近になってうれしいニュースがもたらされた。そんな出発を感じさせるいろいろな要因のせいか、新たな風を巻き起こす予感に満ちたライヴとなった。前回とメンバーが何人か入れ替わったこともそれを強く印象づけていた。
「ポップチルドレン」、「廃墟の街」と10年近く前からスポークンワーズのスタイルでお馴染みの曲がまず最初に披露された。佐野元春は低い声でゆっくりとリーディングし、慎重にリズムと対峙していた。「廃墟の街」の後、雷鳴が轟き、「ドーーン」と落雷の音が響き渡った。そしてそれが合図となりはじまったのが新曲の「アルケディアの丘」で、佐野元春はステージの端の椅子を後ろ向きにして跨り、背もたれに肘を突いて一角獣が登場する奇妙なストーリーを話した。それはまるで友部正人の書いた詩のようにシュールな内容だった。
山木秀夫のドラムソロから「ベルネーズソース」へと展開された中盤は、佐野元春が山下柚実著『時代をノックする音 佐野元春が疾走した社会』の中で「バッドなイメージの集積」と話した「エーテルのための序章」からリーディングされた。「こんな夜には」では前回、直前に起こった9.11に言及する"遠く西側のどこかでビルが崩れる音を聴いた"とリーディングしたが、今回は"洪水の轟く音を聴いた"ともともとの詩のほうに戻していた。もうそれはテロとは無関係の文脈で語られたわけだが、それでも現代の混沌をリアルに浮かび上がらせていた。
「日曜日は無情の日」、そして井上鑑のピアノソロからはじまった「何もするな」は、忘却の彼方で揺れている記憶を呼び起こすようだった。
金子飛鳥のヴァイオリンがフィーチャーされた「世界劇場」はどこか威風堂々とし、新しい旅立ちをはじめようとするかのように動き出すイメージに溢れていた。「何が僕を狂わせるのか?」は「ポップチルドレン」と対を成しているようで、それが一層、今回の「In
motion 2003」が統一した文学性を獲得しているように思えた。それにしても激しいサウンドのこの曲は座って聴いている曲ではなかった。
スポークンワーズのテキストとして「エーテルのための序章」を開くと、「何もするな」と「世界劇場」、「何が僕を狂わせるのか?」がそこに含まれていることを確認できるが、ライヴのことを思い出しながら読んでると、一角獣(ユニコーン)の存在がとても気になる。僕は『The Barn』のアルマジロを思い出しながら、果たしてこの架空の獣は一体これからどんな夢を見せてくれるのだろうかと、あてもなく考えていた。
Set List
01 ポップチルドレン-最新マシンを手にした陽気な子供たち
02 ああ、どうしてラブソングは
03 廃墟の街
04 アルケディアの丘
05 ベルネーズソース
06 こんな夜には
07 日曜日は無情の日
08 何もするな
09 世界劇場
10 何が俺を狂わせるのか?
□お知らせ□
開演前に今回の公演がビデオ撮影されているとアナウンスがありました。
前回の公演の模様はDVD『In Motion 2001 -植民地の夜は更けて』として発表されています。また佐野元春の自主レーベルGO4ではライヴ・アルバム『In motion 2001 -植民地の夜は更けて』を販売してます。
|
|home|
|